アメリカは何故パリ協定に何度も加入と離脱を繰り返せるのか?
アメリカ合衆国憲法2条セクション2には、大統領に条約を締結する権限が認められていますが、締結のためには、上院議員の3分の2以上の賛成が必要です。
ただ、大統領は上院議員の3分の2以上の賛成が必要となる憲法上の条約しか締結できないというわけではありません。それ以外にも大統領が他国とExecutive
agreement(行政協定)を締結することが可能です。Congressional
Research Service(議会調査局)のレポートによるとこのExecutive
agreementにも3つのタイプがあると記載されています。Congressional-executive
agreement、Executive
agreement made pursuant to a treaty、solo
executive agreementの3つです。
Congressional-executive agreementとは、議会が二院制のプロセスを通じて制定した法律により承認する行政府の協定を言います。
これによって締結された例としては、NAFTA(North American Free Trade Agreement「北米自由貿易協定」)、WTO(World Trade Organization「世界貿易機関」)、USMCA(Agreement between the United States of America, the United Mexican States, and Canada「米国・メキシコ・カナダ協定」)です。
Executive agreement made pursuant to a treatyとは、大統領が上院で承認された条約に基づいて行う行政府の協定を言います。
solo executive agreementとは大統領の権限に基づいて行う行政府の協定とされています。これによって締結された例としては、気候変動に関するParis
Agreement(パリ協定)があげられます。
本題に戻って、条約やこれらの協定を離脱できるのかについてご説明しますが、その際には二つの側面から考える必要があります。まずは、国際法上の観点から離脱が可能かという問題と、アメリカ国内法上の観点から離脱が可能かという問題です。ただ、ここでは、アメリカ国内法上の観点を中心に説明します。
憲法上の手続きに従って、上院議員の3分の2以上の可決によって比準された条約から大統領が単独で離脱することは出来ないと考えられています。しかし、問題は、Executive
agreement(行政協定)の場合です。もともと上院議員の3分の2以上の可決を経ていないので、離脱の際にこのような手続きは要求されません。だからといって、大統領が自由に離脱することが可能なのでしょうか。
上記のCongressional-executive
agreementでは、議会が承認する際に、離脱する場合の条件が決められることがあります。その例として挙げられるのが、アメリカがWHOに加入する際に議会が可決したJoint
resolution(両院合同決議)に記載されていた条件で、離脱する権限は、通知してから1年後に与えられるというものです。
最初のトランプ政権がNAFTAを離脱を表明した際に、Congressional-executive
agreementについては、議会の何らかの承認が必要となるか議論がありましたが、最終的にはNAFTAの代わりとなるUSMCAが議会によって可決されたことで終息しました。
気候変動に関するパリ協定は、Congressional-executive
agreementでも、Executive
agreement made pursuant to a treatyでもないので、solo
executive agreementということになります。アメリカの国内法上、大統領がパリ協定からの離脱を妨げる法的な手続きは存在しないので大統領が離脱を表明することは可能です。そこで、大統領が変わるたびに加盟したり離脱したりを繰り返すことになったのです。ただ、パリ協定自体には、離脱の手続きが記載されており、国際法上はこの離脱手続きに従う必要があります。
アメリカでは政党間の分断がすすみ過ぎて、法律にせよ国際協定にせよ議会が機能しなくなってきたのを、大統領令などの行政府の権限によって補完しようとする動きが加速しています。そこで、結局のところ、大統領が交代するたびに、振り子のおもりが反対側に大きく振り切れてしまうという現象が起こっているように感じられます。