最高裁のメディアに関する意外な判断
日本でメディア側で名誉棄損訴訟に関わっていた弁護士としては、1964年にアメリカの最高裁判所で判断されたNew York Times Co. v. Sullivan(ニューヨークタイムス対サリバン判決)という、報道の自由に大きな影響を与えた判例を読んだ際には、日本の法律との違いに衝撃を覚えました。ニューヨークタイムス対サリバン判決は、分かりやすく簡単に説明してしまうと、公人等に対する報道等の場合は、名誉棄損訴訟を提起した原告側が被告側に「actual malice(アクチュアル・マリス、無理に訳すと、実際の悪意)」があったことを立証しなければならないと述べています。これに対して、日本で名誉棄損訴訟を提起する場合、原告ではなく、訴えられた被告側が、報道時に、報道した内容が真実であると信じるに足りる合理的な理由があったことを立証しなければなりません。
つまり、日本で名誉棄損訴訟を提起する原告は、報道内容が真実ではなかったことを立証すれば足りるのですが(後は被告の反論と立証に委ねられる)、アメリカで名誉棄損訴訟を提起する原告は、原告が公人等である場合は、報道内容が真実ではなかったことを立証するだけでは足りずに、アクチュアル・マリスがあったにも関わらず報道したということを立証する必要があるので、公人側が名誉棄損訴訟で勝利するのは日本と比較して難しいのです。
トランプ大統領の熱心なサポーターであるSteve
Wynn氏が、最高裁に対して、このニューヨークタイムス対サリバン判決を再考することを最高裁判所に求めた際には、過去の古い最高裁判決を複数覆している今の最高裁判所が、約60年前の判断であるニューヨークタイムス対サリバン判決を覆すのではないかとも言われていました。しかし、意外なことに、最高裁判所は、たった一言「Petition
for writ of certiorari to the Supreme Court of Nevada denied.」と判断して、最高裁判所での判断をしないと決定しました。これによって、ニューヨークタイムス対サリバン判決は、しばらくのあいだ覆されないことになりました。
この判断が、複数のメディアを訴えているトランプ大統領の行動に影響を与えるのかは不明ですが。